本研究の目的は、作文の過程を学習者論的に意義づけるために、学習者のこの過程での「表現意識の発生点」と「その展開の諸相」を調査研究して、この過程での学習者の充足感の在りかを追究することである。具体的には、実験授業による記述的研究を行い、発達段階に応じた表現意識の発生とジャンル選択との関連性の基本的スタイルを捉えることである。 研究は、ジャンルやディスコース意識の不十分な小学校4年生での授業データを同一クラスで年間2回(半年後に)収集し、これを他の学年と比較研究した。実施校の実績は公立小学校4年(2校各2回)、同6年(1校1回)、公立中学校1年(1校1回)である。 研究の結果、次のことが明らかになった。1.4年生はジャンル選択意識やディスコース意識が不安定な混同期にあり多様化傾向が発生する基盤段階にあるため、研究の基礎データとして有用である。2.個人の事例研究から、「テクスト生成過程」で授業コミュニケーションの刺激(他者とのかかわり)が多様なかたちで有意義に作用し、ジャンル意識・ディスコース意識の変容がダイナミックに生じている事実が捉えられた。ただし、このダイナミズムには、発達段階よりも、クラスでの既習の内容や習慣が大きく作用している。3.この事実は、結果として、学習者ひとり一人の個別化した「学習の姿」として評価できるもので、一定の充足感も認められた。
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