本研究は、高等学校における新設教科である福祉の指導法の内容と方法について、いかにあるべきかを明らかにするための基礎的な調査研究であり、高等学校福祉系学科の教育の実態に関する調査(調査I)、高等学校福祉系学科の教員の意識およびニーズに関する調査(調査II)、教科「福祉」の教員養成課程のある大学の教育内容等に関する調査(調査III)から構成されている。 研究の結果、資格取得が可能であることが福祉系学科の大きな特徴であり、介護福祉士国家試験の合格率がその学科が評価されるポイントとなっていることが確認された。担当教員は学科の評価を上げるという使命を果たすべく、資格取得に主眼をおいた指導をせざるを得ない状況があったが、資格取得が第一の目標のように掲げられ、それ以外の学習活動に力を注いでいないことに対して「このままではいけない」という危機感を持っている教員が少なくないことが明らかになった。しかし、資格対応のカリキュラムにすることによって生じる時間的負担と精神的負担があるため、自分が重視したいと考えることを授業内容として取りあげることは非常に難しく、教員は葛藤している状況にあると言えよう。 さらに、大きな問題であったのは、生徒は資格取得を主眼とする予備校的な授業を受けているという点である。生徒は国家試験準備のために毎日多くの授業をこなさなければならないのに加えて、放課後や休業中の課外授業や模擬テスト等があり、非常に多忙な学校生活を送っている。そのような環境では、生徒は「国家試験合格」しか見えなくなってしまい、自分が将来何をやりたいのか、本当に福祉を学びたいのかを考える時間を持てなくなっていることが懸念される。
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