私たちは、平成11・12年度の研究によって、聴覚障害児が示す操作的意味への固執という問題に取り組んできた。その結果、視覚的なメッセージを操作として受け入れるのみではなく、そこに含意されている構造的な意味を見出すためには、メッセージを選択的に知覚する必要があることを究明した。こうした研究成果を受けて、平成13・14年度の研究では、「聴覚障害児の数学的コミュニケーションにおける選択的知覚の鋭敏化」という研究課題に取り組んでいる。研究1年目の平成13年度は、主に選択的知覚という問題について理論的な検討を行ってきた。本年度の研究成果の概要を述べれば、以下のようにまとめることができる。 メッセージはコミュニケーションの対象として受信時に解釈され、また、その後の認知過程において反省的思考の対象として再解釈されるように、選択的知覚も2つの段階で行われる。まず受信時に、メッセージは選択的に知覚され、第1の解釈をもたらす。そして、その後の認知過程において、先に解釈されたメッセージは必要に応じて想起され再解釈されるが、この時には、また別の知覚様式を発見することもある。それまで何度も見たり聞いたりしていたことが、別の構造を持った情報体として認識されることもある。別の知覚様式に気づくことが新たな思考を活性化させ、思考の活性化が対象の一部にさらなる意識の集中をもたらす。ある知覚に対する意識の集中が、選択的知覚の鋭敏化ということである。
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