本研究の目的は、子どもの社会性や人間性を育むために、「伝統生活文化」を中心教材に据えたカリキュラムの在り方を構想し、実践することである。 最終年度の研究成果は、以下のとおりである。 1.前年度の開発した「荒川流域の伝統生活文化学習」の教材を授業化するために、授業素案・略案を作成した。また、子どもに期待する学習活動(祭り、遺跡、碑の調査、マップの作成など)の内容を整理した。 2.埼玉県内の「伝統工業」の一つである「草加せんべい」を教材とした小学校4年の社会科授業、子どもたちが「富の川越芋」栽培を「伝統」ととらえた小学校3年の社会科授業を分析検討し、小学校における「伝統生活文化」学習の有効性と可能性を探った。 3.2000年に改訂されたドイツ・バイエルン州の基礎学校の学習指導要領に基づいて、「政治教育」(Politische Bildung)、「政治・社会学習」(Politisches und soziales Lernen)のカリキュラム構成の特色を明らかにした。 4.「政治教育」を担うカリキュラムの構成原理は、子どもの興味・関心・問題意識(子ども志向)と科学・学問の内容と方法(事実・科学志向)であり、この2つの原理によりながら、学習内容・対象は、子どもの周囲である「世界(Welt)」から選択されている。その際、その「世界」にどのように対峙させるのかは、その時代・社会が要請する望ましい市民像・人間像に依拠する。ドイツの場合、その市民を育成する教育は、現体制の法治国家・社会市場経済の保守を志向している。しかも、社会、自然、環境、次世代に対する「責任意識」の育成が教育の根底を支えている。
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