本研究の目的は、知的障害児・者の運動指導を行うときに彼らの有する能力を十分に発揮させるような言語教示のあり方を明らかにすることである。昨年度と同様に、以下の二つの方向から検討を加えた。1.彼らの有している言語理解の能力の問題、すなわち、言語による行動調整能力の側面にかんしては、把握運動の調整及び歩行速度調整の2つについて検討を加えた。これらの調整の健常発達過程は、未分化な状態から、極端な調整程度が分化し、その後「少し」や「半分」という細かな調整程度が分化していくことが明らかとなっていたが、知的障害児では極端な調整程度は分化するものの(この点で健常児と大きな差のないことは強調しえることである)、そこから2つ以上の程度を区別して調整することには困難のあることが示された。すなわち、「力一杯」とそうでない調整程度は区別するものの、それ以外の調整程度を分化させることには困難のある場合の少なくないことが示された。なお、握力の調整の程度を表現するには、Stevensのベキ関数よりもむしろ古典的な対数表現の方が的確であることが、健常成人・健常児の場合にあることが基礎的な検討から示された。2.もう一方の実際の指導場面での言語教示の分析については、養護学校小学部で行われた体育の授業について、教師の言語教示を分類・整理するとともに、それに対する子どもの反応をやはり昨年同様調べた。その結果、教師の言葉掛けは、個人に向けられた時と集団の向けられた時とで異なり、個人へ向けられた場合に動機づけを促すような教示が多いという昨年の研究で得られた示唆が確認された。
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