本研究の目的は、知的障害児・者の運動指導を行うときに彼らの有する能力を十分に発揮させるような言語教示のあり方を明らかにすることであった。そのため、以下の二つの方向から検討を加えた。1.彼らの言語による行動調整能力について。把握運動の調整及び歩行速度調整の2つについて検討を加えた。健常発達過程に関しては、3歳から6歳までの幼児を対象とした検討から把握運動・歩行速度調整のいずれもいかなる調整も未分化な状態から、まず「もっと」というような極端な調整程度が分化し、その後「少し」や「半分」という細かな調整程度が分化していくことを明らかにした。これに比して、知的障害児では極端な調整程度は分化するものの(この点で健常児と大きな差のないことは強調しえることである)、そこから2つ以上の程度を区別して調整することには困難のあることが示された。こうした言葉掛けは運動指導の際に頻繁に用いられるものであれば、こうした彼らの特性には十分注意を払う必要があろう。2.実際の指導場面での言語教示の分析。養護学校小学部で行われた体育の授業について、教師の言語教示を分類・整理するとともに、それに対する子どもの反応を調べた。その結果、教師の言葉掛けは、個人に向けられた時と集団の向けられた時とで異なり、個人へ向けられた場合に動機づけを促すような教示が多く、集団に対する時には授業の流れをつくるものが多いということがわかったが、無意識的にも行われる教示の工夫という点までは十分検討できず、その点の追求は今後の課題として残された。
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