研究概要 |
明治・大正期における図画(初期は画学)・手工科に関する論文・著作を網羅した文献目録の作成と,豊富な資料に基づいた美術教育思潮の変遷に関する分折を目的とする本研究の初年度にあたる今年度は,文献資料の渉猟・収集,整理を主に行った。これとともに,昨年度までに入手した資料の見直し・再整理をすすめまたデータ打ち込み作業を始めた。 こうした作業を進めるなか,これまで美術教育史上ではほとんど触れられてこなかったエリザベス・P・ヒュース(Erizabeth.P.HUGHES)という英国人女性教育家が,明治期美術教育思潮に大きな影響を与えたことが明確になってきた。すなわち明治34(1902)年に教育視察のために来日した彼女が,日本の学校では図画(この場合は黒板上での図解)を上手く利用していない,また,教授に問題があるのは英語と図画科だなどと発言したため,英語では帝国教育会内に教授法研究会が発足し,図画科では当時活動していた文部省図画調査委員会の答申に彼女の意見が取り込まれるのである。結果,師範学校図画科の教授内容に黒板画が設定され,図画教育界に黒板画ブームとでもいったような現象が起きるのである。明治30年代半ば以降,黒板画に関する著作(教本)の発行が目立つ時期があるといった指摘は従前からあるが,これをヒュースと結びつけたものは筆者は知らない。 筆者は以前からヒュースには着目しており,関連資料の収集と分析を試みてきた。また,黒板画という用語は次第に略画という語に置き換わり,黒板画教本は,現在も多種発行されている略画辞典などといった書籍となっていく過程について研究している。とりあえず次年度,「ヒュース嬢と黒板画ブーム」(仮題)として発表する予定である。なお本年度については,本研究の成果を一部利用して,2編の論文を執筆した。
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