音楽的嗜好・趣味が形成される重要な時期である10代半ばの年齢層を研究対象の中心に据え、質問紙調査とインタビュー調査及び記述的資料の分析を併用しながら、実証的研究を行った。本研究の調査対象は大きく2つに分かれる。第1は10代半ばの年齢層一般、第2は特定分野の音楽活動に熱中する若者である。前者は10代半ばの年齢層の音楽的趣味・嗜好に関する全体的な傾向の把握を目的として、中学2・3年生および高校生を対象に質問紙調査を実施した。後者は特定の音楽的趣味・嗜好が何によって形成されるのかを探ることを目的とし、本研究では特にポピュラー音楽専門学校で学ぶ若者を対象に質問紙調査とインタビュー調査を実施した。また、それを補足するために、ポピュラー音楽バンド活動を行っている若者についての記述的資料を収集した。これらの調査資料を、男女間の相違、稽古事等の学校外教育、家庭の音楽的環境、学校音楽教育との関連などの多角的な視点から分析した。本研究により、(1)子どもの音楽活動・学習に関する親の対応は子どもが男児か女児かによって異なり、そのことが音楽的趣味・嗜好における男女間の相違に影響していること、(2)学校外での音楽の稽古事経験の有無が学校の音楽教育への適応にも強く影響しており、学校の音楽教育が必ずしも自立した役割を果たせていないこと、そのことが一方で、マスメディアを通したポピュラー音楽のみにしか関心を示さない若者層を形成する要因になっていること、しかし、(3)ポピュラー音楽専門学校の若者の音楽的興味・関心の幅は広く、音楽への熱中(のめり込み)の深さが音楽的趣味・嗜好の形成には重要な要素であることなどが明らかとなった。以上の知見をもとに、今後の課題として、ポピュラー音楽の学習や活動に熱中している若者の音楽学習の具体的な方法・プロセスについて実証的に研究し、学校音楽教育への有効なヒントを得たいと考えている。
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