本年度の目的は、これまで動作学的な分析があまりなされていない「心と体をほぐす」ことに関する研究として、特に「体ほぐしの運動」の動作に関する分析を中心に検討することであった。 その主な内容をまとめると、次のようであった。 学習指導要領の改訂で、新しく位置づけられた「体ほぐしの運動」は、「心」と「体」を「ほぐす」領域であり、その中でも今回は、体や心のイメージだけでなく動作自体も特徴的なものとして、主として気づきや調整に関わる「野口体操」に着目した。「野口体操」は、学習指導要領の改訂以前から学校教育以外で実践されてきたが、それを授業に取り入れた教師はごくわずかであった。当然のことながら、教育現場における動作学的な研究はほとんどみられない。そこで今回は、「野口体操」を取り上げ、その中の代表的な動作に関して検討した。 具体例には、「野口体操」の「腕回し」と「ぶら下げ」動作について、技術習熟段階の異なる熟練者、非熟練者を対象として、その動作情報の収集を行い分析を行った。動作映像記録に関しては、被験者の脊柱の椎体の棘突起上に加え、頭頂、肩関節中心、肘関節中心、手関節中心等にマークし、デジタルビデオカメラで、被験者の背面と側面より撮影・録画した。ビデオ画像のフレーム毎の動作をスーパーインポーズして記録し、コンピュータの解析プログラムのステックピクチャー等により、動作学的に明らかにした。 それらの主な結果をまとめると、熟練者と非熟練者の動作特性の相違から、「野口体操」は、最大努力を要するスポーツとは一見異なる「ほぐす」という特徴があるものの、動作としては主動作前の、いわゆるプレパレーションの動作により効果的に脱力動作へ移行しており、この動作が重要な要因であると考えられた。
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