ヘレン・ヘファナン(Helen Heffernan)は、カリフォルニア州教育局初等教育課長を経て、敗戦直後に来日し、日本の小学校社会科創設に関わった人物の一人である。ところが、彼女のカリキュラム論と問題解決学習論の体系的収集と解明は未だ本格的に行われていない。 平成13〜16年度にわたる本研究の研究期間においては、主として次の3つの作業を行った。 第1に、国立国会図書館、国立教育政策研究所、東京学芸大学、カリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学などにおいて、彼女の著作物の検索と収集を行った。その結果、25本の邦文(邦訳)論文と170本に及ぶ英文論文の所在を確認し、主な著作物を収集した。 第2に、国立国会図書館に所蔵されている連合国軍総司令部民間情報教育局(GHQ/CIE)関係の「会議記録」と「週間記録」等を検索し、ヘファナンに関係した資料の収集を進めたことにより、日本における彼女の活動の概要を把握することができた。 第3に、ヘファナンのカリキュラム論と問題解決学習論を教科教育学的視点で整理し、分析的検討を行った。筆者の専門とする小学校社会科に関しては、次のような結論が導かれた。 日本における小学校社会科の成立は、昭和22年5月に発行された『学習指導要領社会科編I(試案)』に求められる。彼女が来日したのは、その編集作業が佳境に入った昭和21年11月であり、彼女の要求によって同書に「附 作業単元の例」が添付され、さらには『小学校社会科学習指導要領補説』の編集が開始されることになった。こうした経緯を踏まえて、ヘファナンの論文を読み解いていくと、今日につながる小学校社会科教育論の原型として、彼女のカリキュラム論と問題解決学習論を位置づけられるという結論が仮説として導かれた。『学習指導要領社会科編I(試案)』から『小学校社会科学習指導要領補説』へと教育論の転換、を示唆し、子どもの学びを中心とした社会科授業の具体像を示したのがヘファナンに他ならないということである。
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