本研究は、文章生成過程の観点から作文能力の育成を理論的・実証的に図っていこうとするものである。 本年度は、平成12年度版小学校国語教科書(大阪書籍、学校図書、教育出版、東京書籍、光村図書)における作文教材の分析を、文章生成に関わる三つの視点(書く場がどのように提示されているのか、書く場における他者-読み手や協同相手-との関わりがどのように描かれているのか、文章生成における内的過程がどのように取り扱われているのか)から行った。その結果、(1)書く場(読み手や目的)は漠然と示される傾向にあること、読み手は「友達」に設定される傾向にあること、(2)書き手と他者(読み手や協同相手)との関わりが具体的に示されている教材は少ないこと、(3)書く手順や書くときの留意点は丁寧に示される傾向にあるが、文章を生成している内的過程(文章を書いているときに生じた問題にいかに対処するのかなど)は十分取り扱われているとは言いがたいことなどが見出された。これらより、教科書教材を基底とした作文指導を充実させていくためには、(1)書く場を明示しそれを意識した書き方ができるよう配慮していく必要があること、そのためには多様な読み手を用意する必要があること、(2)他者との関わりにおける「書くこと」の学びを具体的な支援によって促進していく必要があること、(3)問題解決の様子など文章生成における内的過程を具体的に取り扱っていく必要があることが明らかになった。
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