本研究の目的は、総合的学習の授業実践にとり組んできたある教師を研究協力者として、その教師としての成長の軌跡を、実践的知識の形成と変容という観点から探究することにある。この研究目的に迫るために、本研究では、20年以上の間、中学校において国語科総合単元学習(国語科を軸とした総合的学習)の授業を実践しながら、数多くの授業実践記録を公表してきた遠藤瑛子氏の協力をえた。その上で、遠藤氏による単元学習の授業実践記録などドキュメントの検討と、ある単元の授業の観察とその記録化をふまえつつ、遠藤氏への約10時間に及ぶインタビューを行った。こうした事例研究の方法は、インタビューにおける教師の授業実践経験の語りを軸とするという意味から、ナラティヴ・アプローチと呼ぶことができる。このナラティヴ・アプローチにおける中心的なデータ=インタビュー・データについて、以下のような三つの段階を経ながら解釈を深め、遠藤氏の単元学習にかかわる実践的知識の形成と変容が探究された。まず、第一の段階では、遠藤氏の学習者時代から現在までを通観しつつ、そこで形成されてきた実践的知識を特徴づける基本的なカテゴリーを明らかにしながら、その実践経験のライフヒストリー的な記述・解釈を試みた。次に、第二の段階では、前の段階でえられた知見に基づいて、遠藤氏の単元学習にかかわる実践的知識を特徴づけるカテゴリーを明らかにしながら、実践された諸単元生成の文脈の記述を試みた。さらに、第三の段階は、特定の単元の構想と実践を通して、遠藤氏の単元学習にかかわる実践的知識が変容する様態を、以上のカテゴリーにそくして記述・解釈した。以上のような遠藤実践にかかわる事例研究の結果は、他の教師に、事例の記述・解釈と自らの実践経験を対照させて、自身の経験をふり返る契機を提供できる点に、意義がある。
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