研究概要 |
文中に格要素として現れる名詞や名詞句およびそれに相当する表現は,談話の世界に存在する事物を指し示す働きを持っている。ストーリーを待った内容を伝達しようとするときには,登場する人物や物などを的確に指示する表現を用いなければならない。指示表現の形式は,談話の各時点でどの指示対象に注意がおかれているかによって変化する。話し手の意識の中心にある要素であり,わざわざ形式を与えなくても聞き手が正しく指示対象を同定してくれると話し手が判断できるなら,ゼロ形式(省略形)の名詞句が使用される。 本研究では,日本語母語話者の指示表現選択の実態を,英語を母語とする日本語学習者の談話データと対照しながら明らかにすることを目的とする。 今年度は,日本語母語話者・日本語学習者の談話データ収集を,それぞれ山形大学および米国ミネソタ大学で行った。談話データのうち,書きことばのデータおよび話しことばの音声データはすでにコンピュータヘの入力が完了し,音声の書き起こし作業が継続中である。 日本語話者の話しことばのデータを分析した結果,ガ格補語がゼロ形式である場合の約4割は,直前の節のガ格補語とは異なる指示対象を持っていることが分かった。形を与えなくでも理解できると判断する要因は,直前でも省略されているからという単純な継続性だけでは説明できないということを,この結果は示唆している。
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