研究概要 |
本研究は、田中(2001)の学位論文(英語、韓国語、中国語、インドネシア語・マレー語話者の日本語の視点・ヴォイスの習得)において韓国語話者が他の母語(L1)話者とは異なる傾向を示したことに注目したものである。対象を韓国語話者に絞り、新たに韓国でも調査を行い、ヴォイスの習得におけるL1の役割、学習環境(韓国と日本)、学習者の心理言語学的な側面について検討するのが目的である。 韓国及び日本において絵を使用してヴォイスの生成を促す筆記テスト(Production test)を行い、その追跡調査を行った。一部の学生にはL1調査、インタビューも実施した。データは、韓国で約120名(そのうち20名は日本滞在経験が1ヶ月以上あるのでデータから排除)集まったが、追跡調査ができたのは17名のみであった(多くが途中で留学等)。日本では日本語学校及び日韓理工系予備教育の学生125名のデータを収集、68名に追跡調査が行えた。データは現在分析中であるが、以下のことが既に分かっている。 (1)韓国語の視点・ヴォイスの習得状況は他のL1話者に比べて有意によい(田中,2001)。 (2)しかし、韓国語にない「使役受身」は上級レベルでも生成されない。 (3)韓国語と一致する「持ち主の受身」は初期から生成され、その後も習得状況が安定しているが、一致しない「持ち主の受身」は習得が遅れる。 (4)韓国語には「てくれる」はあるが、「てもらう」はない。他のL1話者では「てくれる」の生成が先行するのに対し、韓国語話者では「てもらう」が好んで使われる傾向がある。転移の傾向が認められない。 (5)韓国語では視点制約(話者が主語に立つ)は働かないが、視点統一のための直接受身の使用は早い。 以上より、L1にない言語形式の習得は遅れるが、その概念のあるものの習得は容易であること、しかし、類型論的な要因や言語形式の複雑さ等の要因の関わっていることが予想される。今後、L1とL2の対応に注目した習得順序の提出(統計分析)と追跡調査による実際の出現順序の比較を行う予定である。
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