戦後50年以上たった朝鮮学校での教育は、母語による本国へ帰るための教育ではなく、日本に永住し日本語を母語とするマイノリティ民族のための、「継承語」教育である。つまり、日本語を第1言語とする子どもに対する朝鮮語イマージョン教育であり、ここでは、日本語や日本に住むための基礎知識、文化的な側面も重視するため、日本での最大規模のバイリンガル教育であると言える。2年間継続される研究のうち、本年は幼稚園児の朝鮮語の発達全般を、エスノグラフィー(参与観察)の手法で長期にわたって定期的に授業観察をすることによって解明しようとした。 朝鮮学園の幼稚園児が朝鮮語を自発的に使い出すのは非常に早いといえる。「年少児」は、学校によって、集団の大きさ、先生の年齢(世代)、保育活動の内容などに差があり、また、個人差もあるので非常に幅があるが、「年中児」になると、ほぼ全員のマトリックス言語(シンタクスやモーフォシンタクスを有する言語)は朝鮮語になる。英語によるイマージョン教育で全国的に知られている静岡県沼津市の加藤学園幼稚園の園児の場合には、生徒間のコミュニケーションはほぼ日本語で行われ、先生が全体に語りかける一斉授業の中で、先生の使う英語に対して子どもが1語や決まり文句の英語で答える程度にとどまる。こうした大きな差の原因は第2言語にふれる総時間数の差、日本語と第2言語の言語体系の差、教員の継続勤務年数や姿勢の差などにあると思われる。朝鮮語使用はほぼ学校内に限られるので、幼稚園での生活にあらわれない単語や表現、(例、ガソリンスタンド)が日本語で表現されて朝鮮語の中にコードスイッチされて入り込む。このコードスイッチの現象は朝鮮学校で聞かれる朝鮮語に非常に特徴的なものなので、来年度にかけて詳細な分析が必要であると考えている。
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