研究概要 |
多変量正規分布の平均ベクトルや分散共分散行列の推定問題において標本平均や標本分散共分散行列が非許容的であるという結果(いわゆるスタイン現象,スタインにより提案された新たな推定法を縮小推定と呼ばれている)がスタインにより示されて以来,スタイン現象および縮小推定法に関する研究がおおくなされている.また,縮小推定量の導出時に重要な役割を果たすリスクの不偏推定法(SURE法と呼ばれている)の新たな役割にも注目されつつあり,スタイン現象の研究の新局面を迎えている.たとえば,ウエーブレット縮小法等のように従来の古典的なモデルを越えた問題に縮小推定法の原理やSURE法が適応されている例が挙がられる.しかし,縮小推定法が現時点ではまだ十分に展開されていない統計モデルにおいて縮小推定法の考案とその最適理論の発展に貢献することが本研究の目的である. 今年度の研究では以下の統計モデルを中心に研究を行った. (1)2標本成長曲線モデルの回帰係数行列の同時推定問題における縮小推定法の考案とその理論的性質の研究と数値実験による従来の手法との比較を行った.また,2標本多変量楕円モデルの共通位置母数の推定問題における縮小推定法を考案した. (2)多変量正規分布モデルにおける精度行列(分散京分散行列の逆行列)の推定問題を2乗損失関数のもとで考え,直行不変推定量や経験ベイズ型推定量の族の中から改良型推定量を導出し,不偏推定量とのリスクの比較を行い,われわれの提案した推定量が高い改良率を持つことを示した. (3)対称錐体上のウイシャート分布の理論を使いことにより,複素ウイシャート分布やローレンツ錐体上のウイシャート分布の期待値母数の推定問題に対する体系的な問題解決の道筋をつけることができた.この結果から,対称錐体上の多変量解析の展望が期待できる. ここで得られた研究の成果をまとめた論文は1編が印刷中,1編が現在投稿中である.
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