研究概要 |
空間に散布された多数の粒子の配置が与えられたとき、その粒子配置の統計的性質をデータに基づいて明らかにすることは「空間統計学」の重要な課題である。所与の粒子配置に対してボロノイ(Voronoi)分割を施して、その統計的性質を研究するというアプローチは一つの有力な方法である。所与の配置データに対する自然な帰無仮説として完全にランダムな粒子配置(ポアソン点過程)が考えられるが、それに対応してボアソン点過程に対するボロノイ分割(及びボロノイ・セル)の統計的性質を明らかにしておくことは空間統計学へのボロノイ分割によるアプローチにとって不可欠である。本研究では、2次元だけでなく高次元空間に対しても、可能な限り正確にポアソン点過程に対するボロノイ・セルの統計的性質を求めることを目指した。理論的には、ポロノイ・セルの幾何学的特徴量の一部の積率が知られているのみであったが、今回の研究では計算機を用いて大量の独立標本を生成して、その統計分布を求めた。 平成13-15年度の研究期問の中で、われわれは2,3,4,5次元のユークリッド空間においてそれぞれ10000000,5000000,5000000,5000000個のポアソン・ボロノイ・セルの独立標本を計算機を用いて生成して、体積・表面積などの幾何学量のヒストグラムを作成し、それぞれに3パラメータの一般化ガンマ分布を当てはめることによって、それらの統計分布の実験式を求めることに成功した。上記の大量の標本数による実験は世界的にも類例がなく、とくに4,5次元での計算例は世界で初めてである。また、6次元以上の空間での計算プログラムの開発を手がけることができた。そして、これまで提出された積率などに関する理論結果と今回のわれわれの計算結果とを比較し、両者の一致が極めて良いことが判明した。このことは、われわれの計算機シミュレーションの正しさの傍証ともなっているとともに、大量の独立標本の必要性も示している。さらに、4次元以上で初めて現れる新しい知見も得ることができた。また、応用として3次元、4次元の地震データの解析等の研究も手がけることができた。 われわれの研究成果の一部は、国外での3件の講演・発表、国内の18件の口頭発表、そして学術論文誌への18件の印刷公表を行った。
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