研究概要 |
平成13年度は,集積回路工学および計算機科学の2つの観点からの研究を並行して実施した. 1.人工触媒素子のモデルを定式化するとともに,これをマイクロ電極デバイスによって実現する方式を検討した.人工触媒素子に基づく無配線集積回路では,物質濃度の時空間パターンに情報をコーディングすることにより,反応-拡散のダイナミクスを利用した高並列情報処理が可能になると考えられる.そこで,可逆なレドックス分子を情報担体として,その生成・消滅を多数のマイクロ電極デバイスで制御することにより,目的に応じた反応拡散場が人工的に形成できることを実験的に検証した.具体的には,64個のPtマイクロ電極をガラス基板上に2次元的に集積化したマイクロ電極アレーを試作し,これを用いてベンゾキノン/ヒドロキノンの可逆なレドックス反応を制御する人工反応拡散場の実験系を構築した.すでに,個別のマイクロ電極の制御に成功しており,基本的な動作確認が完了している.現在,64個すべての電極を同時制御可能なシステムを構築しつつある. 2.人工触媒素子による無配線集積回路は,反応拡散ダイナミクスのパターン形成能力を利用して,ある種の問題を超並列的に解くことが可能である.しかし,このような分子のダイナミクスを利用したアルゴリズムの系統的な設計法や計算能力は明らかになっていない.そこで,反応拡散ダイナミクスをテクスチャ生成や画像復元のための多次元フィルタとして利用することに焦点をしぼり,本研究代表者が提案する「ディジタル反応拡散システム(DRDS)」と呼ぶモデルに基づく理論研究を行った.平成13年度は、典型的なテクスチャ画像である指紋画像を取り上げ,その修復・復元のためのアルゴリズムをDRDSに基づいて構築し,性能評価を行った.1/25程度の画素数にサブサンプリングした指紋画像であっても,十分な精度での復元が可能であることが明らかになっている.
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