コンピュータグラフィックスが身近になっている現在においても、工業製品や建築物の機能や形状を説明する文書で用いる図は線画であることが多い。これは、写真やコンピュータグラフィックスで作成したリアルな画像よりも線画のほうが製作コストが安いからではなく、線画のほうが3次元物体形状の的確な伝達に適しているからであると考えられる。このように、形状情報伝達の手段として使われる線画について、人間がこれをどのように3次元的に理解しているか、どのような線画が3次元的に理解しやすいかを定量的に明らかにすることは、人間とコンピュータの通信において重要である。 本年度は、まず、線画の3次元知覚の原理を提案した。線画の3次元知覚の原理は、線分間角度の標準偏差最小化などで説明あるいはシミュレートされてきた。本研究では、T.Marill(1992)が提案した視覚内部表現コード長の最小化原理を具体化させ、図形の幾何学的測度の分布のエントロピー最小化原理を提案した。 次に、線画の3次元知覚をシミュレートするアルゴリズムを構築した。線画は、頂点の2次元x-y座標と頂点間の接続関係を表す頂点番号対で与えられる。線画の3次元的理解とは、評価関数を最大にする各頂点のz座標を求めることとみなす。評価関数は、線分間角度分布のエントロピーとする。すなわち、線画の頂点にz座標が付加された3次元ワイヤーフレームにおいて、各頂点で接続された2本の3次元線分間の角度のヒストグラムを求め、これより、エントロピーを算出し、これを評価関数とする。この評価関数が最大となる3次元ワイヤーフレームを遺伝的アルゴリズムにより探索する。このアルゴリズムを様々な線画に適用した結果、人間の3次元知覚と類似した3次元ワイヤーフレームを得ることができた。以上の結果を、コンピュータビジョン分野の主要な国際会議の一つであるCVPR2001で発表した。
|