コンピュータグラフィックスが身近になっている現在においても、工業製品や建築物の機能や形状を説明する文書で用いる図は線画であることが多い。これは、写真やコンピュータグラフィックスで作成したリアルな画像よりも線画のほうが製作コストが安いからではなく、線画のほうが3次元物体形状の的確な伝達に適しているからであると考えられる。このように、形状情報伝達の手段として使われる線画について、人間がこれをどのように3次元的に理解しているか、どのような線画が3次元的に理解しやすいかを定量的に明らかにすることは、人間とコンピュータの通信において重要である。初年度である前年度は、直線から構成されている線画の3次元知覚のエントロピー最小化原理を提案し、この3次元知覚をシミュレートするアルゴリズムを構築した。 2年目である本年度は、対象とする線画の範囲を広げるため、単純閉曲線を含む線画を対象として、その閉曲線部分の3次元形状復元を行う手法を提案した。一般に、3次元物体形状を陰影のない線画として表現する場合、線画を構成する直線や曲線は稜線と先端線の2つに大別できる。稜線とは、どの方向からも見える物体表面上のエッジのことである。先端線とは、視線と物体表面の接点の集合のうち、稜線ではない部分である。本研究で形状復元の対象とする曲線を稜線に限定し、さらに問題を簡単化するため、単純閉曲線に限定した。閉じた稜線を3次元曲線として知覚するとき、それが柱状物体の平面による切断面として見える場合と、円筒の曲面による切口として見える場合に大別できる。そこで、この2つの見え方に基づいた評価関数を定義し、評価関数が最大となるような3次元曲線を復元結果とした。遺伝的アルゴリズムを用いて評価関数最大となる3次元曲線の探索を行った結果、7枚の線画中の6枚は人間の知覚と一致すると判断できる復元結果を得ることができた。
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