図的構造からの制約投射に着目したグラフィックス対話の有効性を探る準備として、今年度は次の二つの実験・観察を行った。 (1)第一の実験では、対話中に用いられるグラフィック表現(とくにスケッチ)の意味範囲について、作図者と読図者がどのようにして合意に到達しているかを調べた。本実験では、とくに、音声言語を用いた陽な合意ではなく、図の構造そのものに基づく、意味範囲道程方略に焦点を絞るため、実際の対話者によってスケッチされた地図と、計算機によって構造変数を制御した地図を実験刺激として、意味内容の範囲について被験者に評価させた。その結果、図全体にわたって値が一定の構造変数については読図者は解釈せず、反対に、たとえ小さな変化であっても、値が一定でない構造変数については解釈するという均一化効果が観察された。本結果は、2002年3月のAAAI Spring Symposiumでの発表が決定している。 (2)第2の実験では、図的構造からの制約投射が、意味論的分析から導かれる単なる推測ではなく、実際の推論者によって行われる事実であることを検証するために、図を用いた簡単な推論仮題を被験者に行わせ、図上での視線の動きを視線追尾装置を用いて記録した。その結果、図の構造、図の意味規則、推論問題のタイプを変化させても、安定して仮説を指示するデータが得られた。本結果については、細部の考察をさらに深めた上で、5月までには国際雑誌Cognitive Science Quarterlyに投稿する予定である。 この他に、制約投射仮説に基づくグラフィック表現の有効性を体系的に分析した論文(単著)と、グラフィック対話における間接指示と発話者の視点との関係を観察的に検証した論文(共著)を、2002年4月のInternational Conference on Theory and Applications of Diagramsで発表することが決定している。
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