本プロジェクトでは、おもに次の3つの視点から、図的構造からの制約投射に着目したグラフィックス対話の有効性を分析した。 (1)行動データによる制約投射理論の検証。図的構造からの制約投射が、意味論的分析から導かれる単なる推測ではなく、実際の推論者によって行われる事実であることを検証するために、図を用いた簡単な推論仮題を被験者に行わせ、図上での視線の動きを視線追尾装置を用いて記録した。その結果、制約投射理論によって示唆される心的過程である「hypothetical drawing」の存在が、図の構造、図の意味規則、推論問題のタイプと独立に安定して確かめられた。 (2)非対面遠隔音声対話における描画行動の観察。非対面で二人の話者が音声対話を行う際に、ネットワークで共有された描画面を用いて、どのような描画行動を行うかを観察した。従来よりWhittaker et al.らによって存在が指摘されたてきた「同時描画」(対話をしながら二人の話者が同時に同一画面上に描画を行う)の分布を、異なる対話課題を設定して比較し、同時描画がコミュニケーション手段としてに有効に働く条件と、阻害要因として忌避される条件を分析した。 (3)対面音声対話における描画行動の観察。対面で二人の話者が音声対話を行う際に、どのような描画行動を行うかを観察した。とくに、音声言語上で行われるターン交代に対し、描画行動がどのような影響を与えるかに着目し、描画が、音声的発話とほぼ同等のターン保持機能をもつことを検証した。 上記(1)〜(3)のほか、制約投射理論を発展させ、グラフィック表現の機能トレードオフを体系的に分析した論文と、グラフィック対話における間接指示と発話者の視点との関係を観察的に検証した論文を出版した。
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