研究概要 |
H13年度のVisualized IECの評価,H14年度の補聴器フィッティングと画像強調への応用,および最適化探索空間の景観情報を利用した高速化研究に続き,H15年度は「心の物差し」としての対話型進化計算(IEC)利用に関する研究を行った これまでのIEC研究は対象システムの最適化,設計に主に使われてきた.IECは人間の評価尺度に基づく最適化であるため,最適化された対象システムの出力を観察することによって間接的に被験者の評価尺度を推定し,IECを心の物差しのための道具として利用できる可能性がある.H15年度の研究はこの点への新しい取り組みであった. 具体的には,統合失調症(旧名精神分裂病)患者の感情表現幅を観察することにIECを利用し,観察された感情表現幅で症状の程度が推察できる可能性の検証につなげるべく研究を行った.実験は,統合失調者3名および健常学生5名に,IECベースのCGライティングデザイン支援システムを用いて3次元顔画像に「楽しい」「悲しい」ライティングをしてもらう.次に,Sheffeの一対比較法中屋の変法を使って,8枚の「楽しい」顔画像の一対比較を32名の被験者で行う.同様に「悲しい」についても実施する. これらの一対比較データを分散分析し,ヤードステックを計算して検定を行うと,「悲しい」顔像に対しては有意な差が見られないものの,「楽しい」顔像に対しては有意に統合失調者の表現が健常者デザインよりも「楽しい」程度が少ないという結果が得られた.この2つの結果から,「楽しい-悲しい」感情表現幅は,今回の統合失調者の方が健常者に比べて有意に狭いと考えられるという結果が導き出された.現在,このシステムを使って,統合失調者のデータを増やしつつある. 以上のH15年度の研究成果は,精神医学での症状判断へ新しい視点での診断データを提供できる可能性秘めているという実用性の観点と,心の物差しというこれまでにないIEC研究の方向性を示した点に大きな価値がある.
|