研究概要 |
平成14年度の研究計画は,平成13年度に引き続き,分子計算理論の構築とそれに基づく新しい分子計算アルゴリズムの設計である. まず,膜の分割と結合による並列分子計算の方式や,新しいタイプの制限酵素を用いたDNA計算方式を開発し,理論的解析を行った.さらに,DNAコンピュータの計算機シミュレータを開発し,これらの分子計算アルゴリズムの正当性を検査し,その時間的効率についても解析を行った.とくに,膜の分割と結合による並列分子計算の方式は,SATと呼ばれるNP完全問題を効率的に解くことが可能なことを確認したが,実際に分子生物学的実験手法を用いて実現するには,解決しなければならないいくつかの問題があることも判明した. 次に,今年度から,転写,翻訳,代謝などの細胞内分子反応メカニズムを用いた新たな分子計算機構の開発を試みる研究を始めた.ポリメラーゼやリボゾーム,制限酵素などの細胞内のタンパク質合成メカニズムやリン酸化などの分子間反応を用いて,従来のDNA分子だけを用いた計算方法にとらわれない新しい計算手法を設計し解析することを目標とする.この研究により,従来のDNAコンピュータにおいて最大の問題となっていた,DNA分子の水素結合を用いたハイブリダイゼーションという演算による精度の低さとエラーの多さを解決することができる目処がたった.
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