研究概要 |
平成15年度は,最終年度にあたるため,3年間で得られた研究成果を論文としてまとめるとともに,昨年度より開発をはじめた無細胞タンパク質合成系を用いた分子コンピュータの方式の設計と実験を行った.そして,有効な結果が得られた. まず,無細胞タンパク質合成系を用いたまったく新しい分子コンピュータの方式を提案した(Sakakibara & Hohsaka,2003).この方式は,有限オートマトンという計算モデルをタンパク質合成系と拡張コドンを用いて実現し,試験管の中でその計算を実行する新しいタイプのDNAコンピュータを提案するものである.タンパク質合成系を用いることにより,従来のDNAコンピュータにおいて最大の問題となっていた,DNA分子の水素結合を用いたハイブリダイゼーションという演算による精度の低さとエラーの多さを解決することができる.具体的には,入力文字をあるRNA部分配列にコード化し,有限オートマトンの状態もRNA部分配列にコード化する.これらのコード化された配列の最後に,受理されたか否かを検出するためにGFPレポート遺伝子を加える.次に,転移RNAがもつアンチコドンを用いて,有限オートマトンの状態遷移関数をコード化する.このように,入力文字列をコード化したRNA配列をメッセンジャーRNAとして,また拡張アンチコドンをもつ転移RNAを無細胞タンパク質合成系に加えて,タンパク質合成反応を実行する.このとき,入力文字列が正しい場合には,タンパク質合成が最後まで実行され,GFPタンパク質が合成されることにより発光が検出され,よって有限オートマトンはその文字列を受理したことを確認する. 本提案手法の有効性を確認する実験を,大腸菌の無細胞タンパク質合成系と拡張コドンを用いて行った.そして有限オートマトンの実装システムが正しく動作することを検証した. 一方,論理演算を実行するDNAコンピュータアルゴリズムの設計と解析を行った(Sakakibara,2003).具体的には,DNA計算の超並列的探索を用いて,計算論的学習における未解決問題であるブール式の学習問題を解く方法を提案し,理論的な解析を行った.
|