1.派生商品の価値や最適ポートフォリオ構成等のファイナンスの諸問題において、漸近展開法を適用し具体的な数値計算を行う場合、低次(通常1次又は2次まで)の漸近展開までは比較的容易に計算可能である。これに対し、低次の漸近展開の近似で得られる以上の精度が要求され、より高次の漸近展開を得ることが困難な場合、低次の漸近展開による近似を用いモンテカルロ・シミュレーションの効率性を向上させる手法を考案した。別な観点から見れば、モンテカルロ・シミュレーションにおける新しい分散削減法(Variance Reduction)を提案したと言える。即ち、ある確率過程で表現される確率変数の関数の期待値が解析的にもとまらない場合、これと相関が高く解析的にその期待値がもとまる確率変数として、対象となる確率変数を漸近展開した量が広範囲の問題に対し極めて有効であることを理論的かつ多数の数値例により示した。具体例としては、拡散過程の下での動学的最適ポートフォリオ構成の評価、各種オプション価値の評価、金利の期間構造モデルにおける必ずしもマルコフ型ではないHJMモデルにおける債券オプション価値の評価等がある。2.さらに、状態変数がジャンプ-拡散過程に従う場合のオプション価値及び債券価値の漸近展開手法による近似式を導出、上記のモンテカルロ法の適用を実現し、数値例を通じてその有効性を示した。3.また、これまで派生商品への適用範囲が所謂ヨーロッパ型に限られていた漸近展開法をアメリカン・オプションの価値評価に適用する方法を開発した。まず、原資産価格が対数正規過程に従う場合にのみ明示的に示されていたアメリカン・オプションの価値の分解式が一般的な1次元拡散過程に対して成り立つことを示し、これに対し漸近展開法を適用することで分解式の解析的な表現を与えた。さらに、簡単な数値計算法を用いることで高速かつ高精度な評価法を開発した。
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