研究概要 |
本研究では、多種多様な役割からなる構造を有し、相互に複雑な拮抗関係にある多様な主体から構成される社会システムに対して、その社会システムの構造刷新を意図した創造的な提案が受け入れられ、社会システムが自己変革を行うための「合意」形成の要件を探る技法として、ゲーミング・シミュレーション技法の洗練化を図る。そのためには、問題状況を、多主体系(poly-agent system)のシステム論を援用して記述・表現することが新たに必要になる。というのは、既存の問題状況を扱うゲーミングモデルを超えてゆくには、より深い基礎への「掘り下げ」が必要であると考えたからである。本研究は、もともとネットワーク型ゲーミングシミュレーターの開発志向の研究申請を行ったものであったが、そののち、その技術的難度や必要資源量は、実装するコンテンツに大きく依存しており、このコンテンツのクラスを規定するより、この「掘り下げ」を先行させた方が得策であろうと考えて、試行錯誤のすえ、研究作業の大部分をこの「掘り下げ」,作業に充てることとした。 しかしながら、この「掘り下げ」作業に手間取り、結局2年半を費やすことになった。というのは、この領域は狭義の社会工学にとどまらず、社会学・心理学・法学・経済学に跨る広汎なサーベイを必要としていたためである。 本研究で行なった作業は、1970-85年にわが国で報告された都市化コンフリクトの既存ゲーミングモデルの特徴抽出を試み、「利害コンフリクト」と「認知コンフリクト」という2つのコンフリクト側面を抽出するとともに、認知コンフリクトを表記する理論モデルとしてハイパーゲーム理論に言及するものである。さらに、「公正さ」「公正感」の理論検討を踏まえて、これらを実務的に処理する「手続き制度」の意味に迫った。 また、ネットワーク型ゲーミングシミュレーターへの実装を念頭に置いて試作したコンテンツ事例として、近未来の問題状況とも言える「TMO対大型店の交渉ゲーミング(TMSG)」ならびに「アシステッド・ネゴシエーション」と「街並み誘導型地区計画策定支援のためのウオークスルー型ビジュアル・システム」に言及する。
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