研究概要 |
研究課題名にある「定跡」とは,将棋で用いられる言葉であるが,本研究は,スケジューリングの作業が,将棋を指すことと似ている部分があると考えたことが出発点となっている.ジョブショップのメイクスパン最小化とは,すべてのジョブの処理に要する時間が最小となるスケジュールを求めることを目的としている.時間軸に沿って早い時刻から徐々にオペレーションを割り付けていく場合,序盤から中盤にかけては,割付可能なオペレーションそれぞれに対し,将来への影響を解析的に精度良く先読みすることが難しい.本研究はこの難しさを定跡によって緩和させようとする試みである. 前年度に人間スケジューラの基本的な定跡の抽出を行うための実験を行ったが,本年度はその結果を踏まえ,定跡のプログラム化を行うとともに,アクティブスケジュールの生成手続きと結びつけることにより,メイクスパンの最小化を試み,100オペレーション以上を含む問題に適用したところ,29問中12問で最適解が得られた.また,探索手続きを先読みにも用いたところ,最適解の求まった個数は同じであったが,平均的には解の精度の向上が認められた. 割付可能なオペレーションの中から1つを選ぶ決定を定跡のみから行うことの難しさを踏まえ,ラグランジュ緩和法の援用も有益であるとの考えに立ち,まずメイクスパン最小化を試みたところ,近似最適化手法の1つとして利用可能であることが明らかとなった.さらに,最小メイクスパン値が与えられたもとで,その最小値を実現しうるスケジュールの効率的な発見の可能性を調べたところ,メイクスパンの下界値よりも適切な情報を提供しうる場合の多いことが確かめられた. これら一連の研究では最適解の探索に分枝限定法を用いているが,探索履歴の参照によって最適性を失うことなく一部の探索を省略させる技法を導入し,計算負荷の増加を埋め合わせるだけの効率的な探索が実現される場合のあることを確認した.
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