プラズマ中における固体微粒子は、電子の移動度がイオンの移動度よりも高いため、通常の熱平衡状態では負に帯電している。このような固体微粒子(いわゆるダスト)を含むプラズマは自然界にも、人工的に作られるプラズマにおいても、広く存在する。例えば、半導体製造過程で使われるプラズマプロセス装置中に発生する塵状荷電微粒子は、半導体製品の歩留まりを下げるなどの問題(プラズマ汚染)を引き起こす。特にダストの数密度が高く、その運動エネルギーよりもダスト粒子間相互作用が強い場合には、系は強結合状態にあるといわれる。本研究では、様々な結合条件下において、プラズマ・ダスト系の集団運動における動的性質(波動、拡散、散逸、揺動等)を分子動力学(MD)シミュレーションを用いて調べることにより、系の統計力学的性質を明らかにることを目的とする。本研究の成果は、平成13年度に、分子動力学シミュレーションの結果から、湯川系の動的ストレス相関関数を求める事により、グリーン・久保の公式を用いて、強結合から弱結合にいたる様々な条件下でそのシアー粘性係数を決定した。さらに、系の輸送係数は、強結合条件下においては時間・空間においては非局所的であるため、そのメモリ関数を用いて記述できるが、平成14年度には、それらのメモリ関数を決定した。特にメモリ関数の減衰時間定数の波数依存性が無視できる条件下では、系の巨視的な振る舞いは「一般化された流体力学方程式」で記述されるが、本研究により、一般化された流体力学方程式に現れる各種係数の熱力学パラメータ(系の温度と粒子間の遮蔽距離)依存性が決定された。これにより、長波長・低周波領域における現象に関しては、非平衡条件下、特に、プラズマ流がある場合のクーロン結晶や強結合クーロン流体の動的性質を、巨視的方程式を解くことにより解析できるようなった。
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