プラズマ対向壁としての黒鉛、および炭素系材料について、水素リサイクリング評価、トリチウムインベントリ評価の観点より気相水素の吸収実験、気相で水素吸収させた試料からの水素昇温脱離実験を行い、得られたデータをもとに水素捕獲サイトと移動の機構を考察した。水素吸収を厳密に測定すると、2段階の吸収プロセスが存在することがわかり、1つは黒鉛の結晶子粒界拡散によるもので、この吸収が終了して結晶子内の層間への移動がスタートすることがわかった。1段階目のプロセスは拡散律速で、2段階目のプロセスは、結晶子エッジ面での解離反応律速である。また、それぞれに対応した水素捕獲サイトとして、結晶子エッジ面に整列して存在する不飽和炭素原子、黒鉛結晶子内の層間に存在する孤立した不飽和炭素原子とするモデルを提唱した。それぞれの結合エネルギーは、2.6eVと4.4eVと見積もられる。また、これまでイオン照射や気相吸収させた試料からの水素昇温脱離実験で複数個観測される放出ピークや、活性化エネルギーから予測されるよりも幅広い放出ピークの原因についてもこのモデルでうまく表され、黒鉛・炭素系材料中の水素移動機構、材料からの放出機構が明らかになりつつある。また、水素雰囲気下でボールミリング処理した黒鉛からの水素放出で観測される独特の放出パターンについてもその放出曲線をうまく再現することができた。本年度にこの研究課題での学会発表は6件(国内3件、国際3件)、論文発表は4件であった。
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