核融合炉プラズマ対向壁としての黒鉛、および炭素系材料について、核融合炉環境下での水素リサイクリング、ならびにトリチウムインベントリ評価を行うため、その素過程である水素移動機構、欠陥との相互作用解明に関する研究を実施した。本年度は、その最終年度にあたり、これまでに得られたさまざまな実験データ、材料パラメータなどから水素捕獲サイトと移動の機構を考察した。昨年度の成果である2段階の吸収プロセス(初期に起こる黒鉛の結晶子粒界拡散と、時間が十分に経過して起こる結晶子内の層間への移動)について、その律速過程を検討した。速度論的解析より、1段階目のプロセスは拡散律速で、2段階目のプロセスは、結晶子エッジ面での解離反応律速であることが確認できた。水素捕獲サイトとして提唱した結晶子エッジ面に整列して存在する不飽和炭素原子と黒鉛結晶子内の層間に存在する孤立した不飽和炭素原子について、結合エネルギーをそれぞれ2.6eVと4.45eVを見積もったが、実際の粒界を通じての移動に1.3eVという活性化エネルギーを持つプロセスがあることもつきとめられた。イオン照射や気相吸収させた試料からの水素昇温脱離実験のさまざまな文献データについて、このモデルを適用して同様な速度論的解析を行ったところ、多くの実験データと非常によく一致し、その放出挙動を動的に評価することが可能となった。本年度、この研究課題での論文発表は1件、投稿準備中が1件である。
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