原子法レーザー同位体分離では、原子蒸気に共鳴するレーザー光を照射し、特定の同位体を選択的に励起、電離した後、イオンを電界等で回収する。選択励起の手法としては、同位体による吸収波長のわずかな違い(同位体シフト)を利用する方法が一般的であるが、同位体シフトが極めて小さい場合や、超微細構造によるスペクトル広がりが、他の同位体の吸収線と重複しているような場合には、レーザーの偏光特性を利用する方式が有効である。本研究では、この方式を用いたガドリニウム(Gd)やジルコニウム(Zr)のレーザー同位体分離に着目し、達成可能な同位体選択性を明らかにすることを目的とし、以下のことを実施した。 選択性に対する磁場の影響を調べるために作製した、磁場の影響下でのレーザー励起ダイナミックスを計算するコードによれば、非常に弱い磁場中でも同位体選択性に大きな影響が現れるとの予測を確かめるために、磁場中でのGdの同位体分離実験を実施した。QスイッチYAGレーザーの第2高調波をポンプ光とした3台のパルス発振色素レーザを用いて、真空中で発生させたGd原子蒸気に照射し、生成した同位体イオンの質量スペクトルを調べた。その結果以下のようなことが明らかになった。 (1)磁場なしではほぼ完全に奇数同位体のみを選択的に電離できる。 (2)レーザーパルス間隔あるいは磁場強度の変化に対して、選択性が周期的に変化する。 (3)弱い磁場に対しても、選択性は変化し、本実験の場合(レーザーパルス幅:6ns)20gauss程度の磁場でまったく選択性がなくなる。これは50nsのパルス幅では2〜3gaussに相当する。 これらのことは、開発した計算コードを用いて解析した結果と定量的に非常によく一致した。計算結果の妥当性が確かめられ、実用装置設計のための知見が得られた。
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