今年度は、海洋表層の栄養塩類の比色分析を高感度化するための基礎的検討を行った。光路長2mのキャピラリーフローセル(LWCC=Liquid waveguide capillary flow cell)を導入した。このフローセルは水よりも屈折率の小さい特殊なテフロンで作られたキャピラリーであり、光をセルから漏らさずにキャピラリーの物理的長さとほぼ同じ有効光路長を得ることが出来る。このセルと可視光源とCCD分光検出器を組み合わせて、高感度比色分析のための吸光度の計測システムを構成した。安定した吸光度シグナルを得るためのサンプル導入法、セルの洗浄法等の検討を行った後、まずモリブデンブルー法によるリン酸塩の分析を検討した。通常モリブデンブルー法で用いられる吸収波長(880nm)では、水自体の光吸収が大きすぎて吸光度の測定が不可能であった。.そこで発色色素の第2のピークである708nmを用いることとし、この波長における妨害物質の影響等を検討した。さらに標準試料を用いて濃度と吸光度の直線性を確認し、最終的には0〜100nMの濃度範囲でほぼ実用に耐える検量線を得ることが出来た。硝酸塩等のいわゆるnMレベルの高感度分析と同等の感度・精度を得ることが出来たので、本学練習船航海において相模湾で表面海水を採取し、室内で1ケ月以上の光照射培養を行って栄養塩を枯渇させた海水を準備して、濃度測定の検討を行った。これらの海水では、検量線法によって5〜20nMに相当する発色がみられた。絶対値の算出には、これらの値に占める発色ブランクについての検討が必要だが、リン酸塩(SRP)の高感度分析法を開発できたことで、次年度に計画している洋上での硝酸塩・リン酸塩の同時鉛直微細分布計測が可能となった。
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