研究概要 |
本研究は,高感度吸光計測法であるキャビティ・リングダウン分光法(CRDS)によって,大気物理・大気化学的に重要ながら,測定の困難さのために,未だに絶対値が確定していないオゾンのWulf帯の吸光断面積を温度範囲300-230K程度において測定することを目的とする.Wulf帯の正確な吸光係数は大気中での放射過程を詳細に検討する場合には非常に重要であり,人工衛星を使ったリモートセンシングデータのこの波長域の解析の際には必須のパラメータである. 吸収断面積を高精度の測定するには信号強度の縦軸精度が特に重要であるので,先ず研究計画通りデジタルオシロスコープをより低ノイズの入力アンプを持ち縦軸精度も高いものに代えた.これを用いて温度298Kでの758から768nmの波長域でオゾンの吸収スペクトルを測定した.この領域には酸素の吸収帯が重なるが,酸素の吸収は線スペクトルであるので,CRDSの様に十分波長分解能の高い方法では酸素の吸収を避けてオゾンの正味の吸収だけを抜き出すことが出来る.この領域にオゾンは明確なスペクトル構造を持たないことが確認できた.次に,モニタ波長を酸素の吸収線から十分離れた761.9nmに固定し,異なる温度4点,298,283,273,263Kにおける測定を行った.キャビティ内の温度勾配は1K以内であった.測定の結果それぞれの温度での吸光断面積として4.78,4.70,4.66,4.65±0.20×10-22cm^2が得られた.ただし現状では,これらの絶対値はハートレー帯(モニタ波長253.7nm)でのオゾンモニタの絶対値精度が十分でないため,さらに若干の補正が必要と思われる.一方,相対値の信頼性は高いので,以上の結果よりこの温度範囲において約-0.08%/K程度の負の温度依存性(低温ほど吸光断面積が小さくなる)があることが分かる.これまで不明確であった温度依存性が確認できたのは大きな収穫である. 来年度はオゾンモニタの精度を向上させ吸光断面積の絶対値を確定させると共に,さらに温度範囲を拡大した精密測定を行う予定である.
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