研究概要 |
本研究は,高感度吸光計測法であるキャビティ・リングダウン分光法(CRDS)によって,大気物理・大気化学的に重要ながら,測定の困難さのために,その絶対値が確定していないオゾンのWulf帯の吸光断面積を温度範囲300-230K程度において測定することを目的とした. 今年度は前年度の実験から明らかになった幾つかの問題点を解消し測定を行った.1)オゾン濃度モニタの絶対値精度を向上:吸光断面積の絶対値決定にはオゾン濃度を高精度で知る必要があり,そのためには濃度モニタの絶対値精度を向上が必要とされた.モニタ光源の安定化,光学系の低迷光化および検出系の低ノイズ化により,短時間のノイズレベルおよび長時間ドリフトともに前年の1/10程度に向上させた.また,モニタ部で温度と圧力を同時測定することで,これらのこの変化に伴う補正も行った.2)キャビティ部の温度安定化:温調部分にキャビティリングダウンミラーを完全に入れ込むなどの測定管の改良と新たに低温専用温調器を使用することで一60℃以下まで±1℃の温度安定度を実現した.この新システムを用いて,先ず298Kで760-765nmの範囲を通常精度で測定したところ,この領域にオゾンは明確なスペクトル構造を持たないことが再確認できた.次に波長を761.9nmに固定し,温度298Kから当初の目標よりもさらに低温の210Kまでの異なる5点,298,273,260,245,210Kにおける高精度測定を行った.測定の結果,それぞれの温度での吸光断面積として2.50,2.54,2.54,2.43,2.38±0.05×10^<-22>cm^2が得られた.この温度領域における吸光断面積の温度依存性はdσ=1.8×10^<-25>cm^2/Kであり,誤差分を考えれば,ほとんど依存性が無いことを示している.これらの値は前年度の暫定的な報告値4×10^<-22>cm^2とは異なるが,これは前年の測定があくまで相対値測定であり,オゾン濃度の絶対値までは保証できなかったためである. 以上,これまで不明確であった温度依存性に結論を出すことが出来たことは大きな収穫である.Wulf帯の正確な吸光係数は人工衛星を使ったリモートセンシングデータのこの波長域の解析の際には必須のパラメータである.本研究で得られた吸光断面積を用いれば衛星データ解析結果の信頼性が向上するものと期待できる.
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