研究概要 |
本研究は,キャビティ・リングダウン分光法(CRDS)によって,大気物理・大気化学的に重要なから,絶対値および温度依存性が確定していなかったオゾンのWulf帯の吸光断面積を温度範囲300-230K程度において測定することを目的とした. 実験上特に重要な点は,1)オゾン濃度モニタの絶対値精度の向上と2)キャビティ部の温度安定化である.1)については,光源の安定化,光学系の低迷光化,検出系の低ノイズ化および温度・圧力差の補正により,確度を10倍程度に向上させた.2)については,温調部分にキャビティミラーを完全に入れ込むなどの測定管の改良などのより210K程度まで±0.4Kの温度安定度を実現した. この新システムを用いて,波長を762.07nmに固定し,温度298Kから当初の目標よりもさらに低温の215Kまでの異なる5点,298,273,260,245,215Kにおける高精度測定を行った.測定の結果,それぞれの温度での吸光断面積として(2.86±0.04),(2.73±0.08),(2.67±0.03),(2.69±0.07),(2.62±0.04)×10^<-22>cm^2が得られた.吸光断面積の温度依存性はdσ=3x10^<-25>cm^2/Kである.僅かではあるが温度存性は存在する.764.47nmにおいても同様の測定を行ったところ絶対値は7%程度小さく,温度依存性については762.07nmと同様の傾向が見られた. 以上,これまで不明確であった温度依存性に結論を出すことが出来た.Wulf帯の正確な吸光係数は人工衛星を使ったリモートセンシングデータのこの波長域の解析,特に酸素のAバントを用いた気温測定には必須のパラメータである.本研究で得られた吸光断面積を用いれば衛星データ解析結果の信頼性か向上するものと期待できる.
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