香川県の河口部には、主にフトヘナタリ、ウミニナ、ホソウミニナが生息しており、これら3種の巻貝に、主に5種類のセルカリアが寄生していた。Cercaria sp. 1はフトヘナタリのみから見つかり、しかもすべての河川のフトヘナタリに寄生していた。またC. shikokuensisは柞田川、土器川、金倉川のフトヘナタリから見いだされ、特に土器川では年間を通じて3O%以上の高い寄生率を保持していた。今回の調査では、前回の1980年代後半に較べて、河口の底質環境の変化が著しく、上記3種の巻貝類の生息数は大きく減少していた。次に、東京湾三番瀬、名古屋湾藤前干潟において上記巻貝類の生息調査を行ったが、いずれの地点でも殆ど発見できなかった。また、水質汚染との関係を見るため全シアン等9項目の水質を測定したが、香川県の河口と東京湾、名古屋湾との差は見られなかった。14年度には吉野川、福岡県曽根干潟、沖縄県国場川、泡瀬干潟、浦内川、四万十川、蛎瀬川を調査したが、国場川、四万十川、蛎瀬川では貝類がほとんど発見されず、吉野川、曽根干潟では貝類はいてもセルカリアは寄生していなかった。泡瀬干潟、浦内川河口干潟では貝類、セルカリア類とも豊富であり、浦内川では同所的に共存する2種の巻貝のセルカリア感染率は有意に異なり、セルカリアが宿主を選択して寄生していた。また、香川県土器川においては、フトヘナタリに2種のセルカリアが寄生しているが、同一個体に共感染している率は期待値より有意に低く、お互いに避け合って寄生している事が明らかになった。この様に日本各地の巻貝の生息状況とセルカリアの寄生状況が明らかになったが、予想以上に貝類の生息している干潟は少なく、セルカリアの寄生も少ない事が明らかになった。なかでも香川県と沖縄県の干潟は、まだ底生生物の多様性を残している貴重な存在である事が分かった。
|