海色リモートセンシングでは、海表面の色を利用して水中の物質の濃度を推定でき、特に植物プランクトン量の指標であるクロロフィルa(CHL)の濃度の推定が可能である。しかし沿岸域においては、CHL以外に懸濁物質(SS)や有色溶存有機物質(CDOM)などが多く存在するために、その精度があまり良くない。本研究では大村湾、有明海、東シナ海で光学データを蓄積し、これらの物質を利用して植物プランクトンや陸域起源水の挙動を明らかにする手法を検討し、また光学的にこれらの濃度を推定する方法を検証・開発した。 大村湾では、海面からの分光放射輝度から経験的にCHLを推定するアルゴリズムにも誤差があるが、衛星からの推定の場合、それ以上に大気補正の誤差が大きかった。また有明海では、干潟のある湾奥部では衛星の推定値に問題があるが、既存のアルゴリズムでも赤潮の時空間変動をある程度観測できることが明らかとなった。一方、東シナ海では、低塩分ほどCDOMが多いという関係があり、衛星リモートセンシングによってCDOMを推定することによって、長江起源の低塩分水の分布を明らかにできることがわかった。しかし季節的には、表層の塩分とCDOMの割合が異なった。さらに東シナ海では、長江からの淡水起源の水の他、大陸棚縁辺部での湧昇やトリコデスミウムのブルームなどによっても植物プランクトン濃度が変動することも明らかとなった。また、東南アジア域での海色リモートセンシングデータの有効性であるが懸濁物の多い海域では注意が必要であることを示すことができた。 新たにCHL、SS、CDOMを考慮した光学モデルの結果をニューラルネットワークにより逆演算して、取得した海面からの波長別の放射輝度からこれらの物質を推定するアルゴリズムを開発し、比較的良好な結果を得た。今後、大気補正と合わせて、リモートセンシングのアルゴリズムとして改良していく必要がある。
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