本年度は、ケイ酸塩鉱物の酸溶解反応メカニズムのpH依存性を明らかにするため、斜長石粉末試料を濃度の異なる硫酸酸性溶液(5×10^<-2>、5×10^<-4>、5×10^<-6>moll^<-1>H_2SO_4)と反応(3h、1day、1week)させ、その表面変化をX線光電子分光法(XPS)、走査電子顕微鏡(SEM)により調べた。その結果、強酸性(5×10^<-2>moll^<-1>H_2SO_4)における溶解では、Na、Ca、Alが選択的に溶出した、二酸化ケイ素(SiO_2・nH_2O)に富む表面溶脱層が生成することが分かった。酸濃度の低い条件(5×10^<-4>moll^<-1>H_2SO_4)での溶解でも、同様に表面溶脱層の生成が確認されたが、Na、Ca、Al表面濃度の低下は強酸性(5×10^<-2>moll^<-1>H_2SO_4)の場合より少なく、表面溶脱層の厚さは酸濃度の低下とともに薄くなることが示唆された。さらに、AlよりNa、Caの方が表面濃度低下が大きく、Na、Caはケイ酸塩骨格構造を形成している元素の一つであるAlより溶脱を受けやすかった。一方、5×10^<-6>moll^<-1>H_2SO_4との反応では、斜長石のAl表面濃度が増加したが、これは、微酸性溶液との反応では、鉱物表面にAlを含む水酸化物層が生成するためと考えられた。 以上の研究結果から、斜長石の風化反応(酸溶解)では、鉱物表面に二酸化ケイ素(SiO_2・nH_2O)に富む表面溶脱層が生成するが、その厚さは反応溶液のpHにより変化し、pHが低下すると表面溶脱層が厚くなることが明かとなった。また、酸濃度が低く中性に近い溶液との反応では、Alの表面濃縮が生じることが分かった。従って、斜長石の風化メカニズムは反応溶液のpHにより変化し、斜長石の表面分析から風化環境について推定できる可能性が示唆された。
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