研究概要 |
放射線誘発の染色体異常が個体発生の過程でどう推移するかを知るために、γ線(2,4Gy)を照射したマウス精子に由来する初期胚(1,2,4細胞胚、胚盤胞)、着床胚(10-11日齢及び16-17日齢胎仔)を発生学的、細胞遺伝学的に調査した。得られた成果は次の通りである。 1.従来成功していなかったマウス初期胚(1〜4細胞胚)の染色体標本作製方法を確立した。 2.1細胞胚:照射群と対照群の合計1,170胚を染色体分析し、受精直後における染色体異常の種類と頻度を明らかにした。構造異常は線量依存的に増加し、4Gy群では36%に達した。異常の種類別では、染色体切断(60%)と二動原体染色体(25%)の頻度が高かった。 3.2細胞胚:照射群と対照群の合計396胚を染色体分析した。1細胞胚でみられた構造異常の約9割がモザイク型(そのうち約3割は正常細胞と染色体異常細胞のモザイク)に変化し、構造異常から派生した異数性も有意に増加した。 4.4細胞胚:照射群と対照群の合計537胚を染色体分析した。モザイク型構造異常胚は2細胞期と比較してさらに増加し、逆に異数性は低下した(モザイク型異常に変化した)。 5.胚盤胞:染色体異常胚の5〜6割が正常胚と同様に胚盤胞期まで発生すると推定された。 6.10-11日齢胎仔:生存胎仔の染色体分析(85胎仔、2,240細胞)では染色体異常が発見されず、照射群で有意に増加した着床後死亡胚の大部分が退化妊娠産物であったことから、染色体異常のほとんどは着床直後に淘汰を受けると推定された。 7.16-17日齢胎仔;後期着床胚の発生学的調査(母獣数52頭)でも発生異常は増加せず、染色体異常胚の着床直後死亡が裏付けられた。
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