研究概要 |
活性酸素はヌクレオチドプール中のdGTPのグアニン残基を酸化して8-oxodGTPを生じ,DNA複製に伴って,それぞれAT→CG変異を誘発する。また最近,dATPのアデニン残基をも酸化して2-oxodATPを生じGC→TAを生じるとの報告もある。それらの酸化損傷を加水分解し,突然変異を抑制している大腸菌MutTのホモログが,マウス,ヒトなどで同定されている一方で,酵母では未だ確認されていない。そこで本年度は,2つの研究目標のうち,「酵母におけるヌクレオチド酸化損傷の浄化機構とそれに伴う自然突然変異抑制機構」について重点的に研究を行った。 大腸菌mutT欠損株で観察されるAT→CG変異が生じたときにのみLac^-→Lac^+になる大腸菌を,酵母ゲノムライブラリーで形質転換したのち、AT→CG変異によるLac^+の青色の変異papillaeが少ないコロニー,すなわちmutT株の高い自然突然変異頻度を抑制する遺伝子をもつクローンを,数万個の形質転換体から3クローン分離した。それらはいずれも,大腸菌MutT欠損株における高い自然突然変異頻度を約10倍低下させた。得られたプラスミドの挿入遺伝子断片をシーケンスした結果,いずれも同一の遺伝子断片が挿入されていたこと,その断片には約2kbpからなる一つのORFが有ること,そして予想されるアミノ酸配列のある領域にMutTやMutTホモログで保存されている領域とのホモロジーが低いながら認められた。次にその酵母MutTホモログ候補遺伝子の破壊株を作成し,自然突然変異頻度の変化をトリプトファンの要求性から非要求性への復帰変異により検討したところ,約10倍の上昇が認められた。現在,この酵母破壊株でいかなるタイプの突然変異が高頻度に誘発されるのかを,酵母sup-4変異スペクトル解析システムを用いて検討しており,これまでにAT→CG変異誘発頻度が野生株に比べて高い傾向が観察されている。またその遺伝子産物を大腸菌内で高発現させるplasmidを作成し,生成を試みている。 今後,その遺伝子産物にMutT様の8-oxodGTPの加水分解活性があるか否かを明らかにする予定である。さらにこの候補遺伝子のホモログが酵母にもうひとつ存在することがデータベースにより確認されたので,その遺伝子についても同様の解析を行う予定である。
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