研究概要 |
本研究は,活性酸素がもたらす「発がん」や「老化」に対抗する細胞防御として,ミトコンドリアの「酸化DNA損傷修復」がどれほど重要であるかを明らかにすることを目的とした。本年度は昨年度に続き,ミトコンドリアや核の酸化損傷修復に欠損のあるマウスの解析を行い,あらたな修復酵素の存在を示した。 チミングリコール(Tg)は,複製をブロックする致死性の酸化損傷として知られる。このTgを修復するDNAグリコシラーゼとして,ヒトやマウスでは唯一NTH1だけが知られていた。我々はこのNTH1がミトコンドリアと核の修復を担当することを示してきた。本研究でNTH1の遺伝子破壊を行ったところ,生まれたマウスには顕著な異常がみつからなかった。放射線で誘導したゲノム上のTgも正常マウスと同程度に修復された。そしてこのNth1ノックアウトマウスには,NTH1の代わりをするバックアッブグリコシラーゼ活性が,核とミトコンドリアの両方に存在することを報告した(Takao et al.,EMBO J.,2002)。さらに,バックアップ酵素の候補遺伝子を探した結果,3種類のendoVIII様グリコシラーゼ遺伝子が見つかり,実際にそのうちのひとつ(NEIL1)が,Nth1ノックアウトマウスのバックアップ酵素の一つであることを報告した(Takao et al.,J.Biol.Chem.,2002)。 本研究ではTgなどのピリミジン酸化塩基を修復する酵素に研究の中心を絞った。その結果,ヒトやマウスでは同じ基質に対して複数のDNAグリコシラーゼが働くことが判明した。同時に,複数あることの意義・それぞれの修復経路や役割分担など,新たな問題提起を促す研究となった。
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