研究概要 |
近年,バイオアッセイの分野で有害気体による環境汚染に着目した研究が行われるようになり,気体の微生物に及ぼす影響を調べる研究が必要となっている.しかし,気体は一部を除き水に対する溶解度が一般に低いため,常圧下では微生物の増殖に影響が現れず評価が困難であった.そこで,本研究では気体を加圧することによって,培養液へ気体を大量に溶解させることで,この問題を解決することにした.培地を直接高圧気体に接触させて,溶存気体と圧力に起因する酵母の増殖阻害を熱量測定法により定量的に見積もった.熱量測定法は,微生物の増殖に伴い発生する代謝熱を熱量計で検出し,その一連の増殖過程を連続的に再現性よく観察することができる方法で,本研究を行う上で非常に有効であった. 酵母の増殖サーモグラムから,増殖を特徴づけるパラメータである増殖速度定数と増殖遅延時間を決定した.各ガス圧力下で決定したこれらのパラメータを使用して,酵母の増殖を完全に停止させるのに必要な最小圧力を示す最小増殖阻止圧力(Minimum Inhibitory Pressure,MIP)を決定した.この方法で求めた空気のMIPは,増殖速度定数を利用すると0.83MPa,増殖遅延時間では0.87MPaと,非常に低い圧力であることがわかった.これは酸素の強い増殖阻害能によるものであろう.一方,窒素のMIPは20MPa以上と大きく,阻害能は低かった.しかし,圧力のみで増殖を完全に阻止するには約50MPa必要であるため,窒素にも気体の性質による増殖阻害能がることがわかった.これも,大過剰に溶け込んだ気体の影響によるものだと考えられる.この他,NOxの一種として知られているが常圧の溶解度ではほとんど増殖阻害能をもたない亜酸化窒素のMIPも評価した.このように気体の増殖阻害能を定量化は,有害気体のバイオアッセイを行う上で1つの有力な指標となりうる.
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