細胞に紫外線を照射すると、シクロブタン型ダイマー(CPD)や(6-4)型ダイマー(6-4PP)等のDNA損傷が誘発される。正常ヒト細胞はヌクレオチド除去修復機構で直ちにDNA損傷の修復を開始する一方、DNA損傷を感知する損傷応答経路を通じて、細胞周期回転の停止、修復蛋白の発現増大、あるいは細胞死の誘導等を行う。しかし、DNA損傷に対する関連蛋白の細胞内挙動を時空間的に表示する方法がないために研究発展が遅れていた。こうした中、私達はマイクロフィルター越しに細胞に紫外線照射する斬新なアイデアに、私達の樹立した損傷特異抗体等による免疫蛍光染色法を応用することにより、細胞核内限局部位におけるDNA損傷の誘発と修復動態、および損傷部位への修復蛋白の蓄積を可視化する新規技術の確立に成功した。実際、正常ヒトおよび除去修復に欠陥を持つ色素性乾皮症A群患者由来細胞(XP-A)において、細胞核あたり数個の小円形にDNA損傷が誘発できた。また、正常細胞では限局部位の損傷が次第に修復されるが、XP-A細胞では全く修復されないことを確認した。さらに、正常細胞において、ヌクレオチド除去修復蛋白のPCNAは直ちにDNA損傷部位に集積後、損傷修復動態に依存して結合量を変化させた。一方、XP-A細胞では、修復欠損のためにPCNAを必要とする反応条件は整わないが、驚くべきことに正常細胞にはるかに遅れて損傷部位に結合後3日間以上保持され続けた。この現象について詳細に検討した結果、PCNAはXP細胞が修復できる損傷(たとえばDNA鎖切断)の修復に関連して集積したものではなく、修復反応が中断された状態にあるCPDや6-4PPが形成する特殊なDNA構造と結合していることが示唆された。こうした結果は、新規実験系が正常なDNA損傷修復のみならず中断した異常修復動態までを理解するのに極めて有効であることを示している。
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