熱帯植物インドセンダンから得られるアザジラクチンは、非常に強力な昆虫忌避活性を有するものの、人畜無害であり残留性が非常に低いことから、環境に優しい第三世代の農薬として脚光を浴びている。本化合物はデカリン部位とジヒドロフランアセタール部位の二つのセグメントから構成されており、その構造の複雑さゆえに現在までに全合成は達成されていない。本研究では、未だ到達されていないアザジラクチンの全合成を達成し、さらに昆虫に対する活性の作用機序を明らかにすることを最終目標とした。アザジラクチンの全合成のために、左右二つの構成部位に分割して合成し、両者を後に分子内反応にて結合することを計画した。既に申請者らはDiels-Alder反応により望む左構成部位であるトランスデカリン部位および右構成部位である三環性部位の合成を達成している。本年度は、特に両構成部位の結合形成反応について展開した。モデル化合物を用いた結合形成反応ではMe_2SiCl_2を用いることにより望む転位生成物を選択的に与えた。この反応様式はキレーション効果にて生成物の立体化学を制御する新規なClaisen転位反応である。既にデカリン部位の構築は達成したものの、その後のエステルの変換に問題が生じ、目的のカルボン酸を合成することは出来なかった。そこで、今回エステル保護基としてTMSE基を用い、除去の際に四フッ化ケイ素を用いることにより望むカルボン酸を初めて得ることができた。このカルボン酸と三環性部位を結合し、先の条件で転位反応を行ったところ、転位生成物が得られることを見出した。さらに、転位反応後の官能基変換についても検討を行った。今回得られた結果により、未だ全合成が達成されていないアザジラクチンの全合成およびその昆虫忌避活性の研究に新たな道が拓かれたと確信する。
|