研究概要 |
ドリコール生合成では、シスイソプレン鎖延長とα-イソプレン二重結合の還元の過程がどのように制御されているのかが、重要である。その一つの指標が、生体内でのポリプレノールとドリコールの存在割合であり、既に我々による2次元TLC分析法でさまざまな植物を対象にそれらの分布に関する研究を行ってきている。今回は、ポリプレノールもドリコールも検出されないと報告されているシダ植物において、その真偽を調べてみた。ワラビとゼンマイを選び、分析した結果、相方共にC80,C85,C90のドリコールが存在していた。同時に行った海草ワカメでは、C90,C95,C100のポリプレノールとC80,C85,C90のドリコールが存在していた。このことはドリコール生合成に必要なシスイソプレン鎖延長酵素とそれとは別のシスイソプレン鎖延長酵素の少なくとも2種類ワカメには存在し、シダでは、ポリプレノール生合成用のシスイソプレン鎖延長酵素が存在しないことを示す。 一方、α-イソプレン二重結合の還元過程の理解では、C20の全トランスポリプレノールが、ラットの胸腺細胞において、そのα-イソプレン二重結合が還元され更に酸化された化合物に代謝された。このことは、立体化学という観点から以下のように解釈される。α-イソプレン二重結合がトランスのプレノールは、還元反応により、飽和され、その立体配置はRとなり、その後酸化されカルボン酸(2,3デヒドロゲラニルゲラニル酸)になる。一方、α-イソプレン二重結合がシスのプレノールは、還元反応により飽和され、その立体配置はSとなり、その後酸化されカルボン酸(ドリコイン酸)になる。これらのことから、α-イソプレン二重結合の立体構造(トランスあるいはシス)を認識する還元酵素が少なくとも2種類存在し、ドリコール生合成ではそのうちの一つが使われていることが示唆される。
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