本研究はポリケチド合成酵素の多様性および機能を理解することを目的に、種々のポリケチド合成酵素との比較を行い、モジュール内の機能ドメインの不活化あるいは新たな機能ドメインを付加したモジュールを構築し、新規ポリケチド化合物創製を目指した次世代新技術を開拓する。本研究では主にエバーメクチン・ポリケチド合成酵素を基本モデルとするが、他のポリケチド合成酵素のモジュールに関しての情報を得るため、エバーメクチン以外のポリケチド合成酵素遺伝子に関しての情報も得ることにした。2000年から開始したエバーメクチン生産菌S.avermitilisのゲノム解析は昨年終了し、多くのポリケチド合成酵素の情報を得ることができた。エバーメクチンC22-C23の炭素鎖伸長・修飾反応はエバーメクチン・ポリケチド合成酵素AVES1のモジュール2が関与しており、この部分のdehydratase(DH)とβ-ketoacyl-ACP reductase(KR)の間に他のポリケチド合成酵素のenoylreductase(ER)に相当する部分を挿入することを計画した。ERはエバーメクチン・ポリケチド合成酵素には含まれていないため、他のポリケチド合成酵素に関して検索した結果、本菌が生産するオリゴマイシン、またS.cyaneogriseusが生産するネマデクチンのポリケチド合成酵素のERを含むモジュールがアミノ酸配列および配列数が比較的エバーメクチンのモジュール2と似ているためこれらのERを用いることにした。ERを含んだ改変ポリケチド合成酵素遺伝子を発現させるため、もとの菌株のaveA1を変異型としなければならない。そのため、染色体遺伝子破壊法によってAVES1を選択的に不活化し、さらに下流のaveA2の転写を妨げないような変異を導入しなければならない。そこでAVES1内のモジュール1のKSドメインの活性中心のCysをAlaあるいはGlyとした置換体を作製し、エバーメクチンの生産が停止した変異株を得ることができた。本変異株はaveA1-aveA2-aveCオペロン構造を破壊していないので、aveA2およびaveCの転写、翻訳には影響がない。さらに、推定されるAVES1モジュール2以降の中間体のN-acetylcysteamine誘導体を変異株に添加した結果、エバーメクチンへ変換することを確認した。
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