産業微生物である放線菌、特にStreptomyces属の菌株は医薬品として重要な多くの抗生物質ならびに生物活性物質を生産する能力を有しており、医薬品資源の供給源として産業上極めて重要な微生物である。近年、生命科学の進歩は生命現象の理解や各種疾病の原因の解明を飛躍的に進歩させ、医薬品の開発においても標的部位がより鮮明になり、それに対応した作用薬物のスクリーニングの展開がなされている。さらにコンビナトリアル・ケミストリーなどの新技術の導入により多くの合成化合物もこれらの対象となっているが、植物や微生物によって生産される天然有機化合物は今後も新しいタイプの医薬品やその他の生物活性物質のリード化合物としての重要性を維持していくものと思われる。放線菌は多くの2次代謝産物を生産することのみならず、それらのいくつかは医薬品供給といった目的のために工業生産レベルにまでその生産性を引き上げることが可能である。すなわち放線菌は2次代謝産物という天然有機化合物の生産手段としての本質的利点を備えている微生物である。本研究ではポリケチド合成遺伝子の高機能化を達成するため、エバーメクチン生産菌S. avermitilisのゲノムから多数のポリケチド合成酵素遺伝子の探索を行い、多様なポリケチド合成酵素の機能構造を明らかにした。エバーメクチン・ポリケチド合成酵素にはエノイル合成酵素(ER)ドメインを含んでいないため、β位炭素が飽和された炭素骨格を生成させることはできない。一方、S. avermitilisゲノムのオリゴマイシン・ポリケチド合成酵素にはERドメインが含まれており、このERドメインを用いたエバーメクチン合成酵素遺伝子の改変を行い、還元型エバーメクチンを生成することができた。
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