われわれは、細胞膜のみからなるプロトプラストとして大腸菌細胞を直径20μm程度に巨大化させるSI (Spheroplast incubation)法を開発し、更に、巨大化細胞内に出現する巨大な液胞様構造体(provacuole)は細胞膜が反転した膜系であることを形態的・生化学的に証明した。細胞膜の配向が正常なプロトプラストと反転した液胞様構造体を使い分けることにより、イオン輸送体の反応部位・調節部位の局在部位に関わらず、分子機能をパッチクランプ法で電気生理学的に解析する新しいイオン輸送解析方法を確立した。好気的呼吸鎖のチトクロムbo型ユビキノール酸化酵素のプロトンポンプ活性は、基質ユビキノール1で誘導される電流としてパッチクランプ法で観測することができ、以下の電気生理学的結果がえられた。 1.膜電位が逆転電位以下でも、定常的な逆電流は発生しない。 2.逆転電位は、膜内外のpH(ΔpH)勾配によって変化し、50mV/ΔpH程度である。 3.形成されるH^+電気化学的ポテンシャル勾配(Δμ_<H+>)は280mV程度である。 4.膜電位を逆転電位より過大な値から解放すると、大きな過渡的な電流が観測される。 その電気生理学的結果の生化学的意味 1.4H+ + O2+ 4e-→ 2H2Oは、定常的には一方向の反応であり、逆反応は、パーフェリル中間体で停止すると推定される。 2.輸送されるイオン種は、H+である。 3.形成されるΔμ_<H+>は、F-type ATPaseによりATPを合成するに十分な駆動力である。 4.パーフェリル中間体からの膜電位緩和過程が観測できる。 以上により、チトクロムbo型ユビキノール酸化酵素のプロトンポンプ活性は、これまでの生化学的結果と定性的には一致し、さらに世界に先駆けてえられたその定量的な成果は、大腸菌細胞一個完全なるシミュレーションのデーターベース構築に大いに貢献する。
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