研究概要 |
哺乳動物の細胞膜二重層の外層と内層に存在するリン脂質は非対称に分布しており、通常、アミノリン脂質は主に内層(細胞質側)に局在している。しかし、血小板や細胞の活性化ならびにアポトーシスでは、この非対称性が撹乱(スクランブル)され、このとき外層に出たホスファチジルセリンは、血液凝固反応を活性化させ、またアポトーシス細胞のクリアランスにおけるシグナルとして機能する。最近、スクランブル化に働くscramblase(318残基)はCa^<2+>結合性のEFハンドモチーフを有する一回膜貫通型蛋白で、細胞内Ca^<2+>濃度の上昇により活性化されることが明らかにされた。本年度は、scramblase cDNAをクローニングし、その構造・機能相関を遺伝子工学的手法により解析した。この過程で、scramblaseの5つのアイソフォームのPCR(Polymerase Chain Reaction)クローニングに成功した(Scr1〜Scr5と命名)。このうち、Scr1については、6つのスプライス・アイソフォームを同定した。これらのアイソフォームは、いずれもカルボキシ末端側のEFハンドモチーフが欠失しており、アミノ末端倒に存在するSH3ならびにWWドメイン(細胞内シグナル伝達因子や制御因子に多く存在する蛋白-蛋白相互作用部位)結合モチーフのみが存在していた。さらに興味深いことに、これらのアイソフォームは正常初代細胞には発現しておらず、癌化した細胞株にのみ発現していた。最近、卵巣癌細胞のin vivoでの増殖が、Scr1 cDNAの導入により抑制されることが報告されており(Cancer Res.62,397-402、2002)、Scr1のスプライス・アイソフォームの癌細胞の増殖能への関与が示唆される。
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